現役運転士による電車の知識と職場裏事情

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この動画の列車のブレーキ操作を見て上手いと思いますか?

time 2022/06/11

この動画の列車のブレーキ操作を見て上手いと思いますか?

ある動画のブレーキ操作を見て疑問に思っていたことがあります。

まずは、この動画をご覧下さい。

画像をタップしたらYouTubeに移ります



本来なら動画を埋め込めばこのサイトでも見れたのですが…この動画に限って埋め込みエラーで出来なかったので画像をタップしてYouTubeで見てください。

さて、この動画の説明欄には

田園都市線田奈駅に猛スピードで突っ込んでくる8500系。
こんな速度で停まれるの? と思いきや、時速30kmくらいから
非常ブレーキ (EB) を使って停止寸前で一気にブレーキを緩めています。
さすが運転士さん、 上手いです。

ーーーーーーー

最後の10両目のパンタグラフが画面上に入った瞬間、 運転士はEBを掛けた所でしょう。
そして回生ブレーキの遮断音 (スコン!) →約2.5秒後にEB立
ち上がり音 (バチン!) が聴きとれます。
フィナーレは停車時のショックを緩和するためEBから一気にブレーキを弱めて停止!
ブレーキ緩解音も盛大です。
おおよそ3mのオーバーラン。停車も速ければ、 発車も早い!
8秒間しかドアが開いていません。
停止位置がオーバーしても、ドアを開けらる限界線にギリ収まっているので、迷わずドアを開けています。
運転士と車掌の素晴らしいチームワークですね。

一部省いてはいるのですが、高速度で侵入した列車が止まりきれず非常ブレーキを使用して停車したということになっています。

この動画の説明欄やコメントには運転操作に関して、「上手い」「すごい技術だ」とありますが、果たしてそれはどうなのだろうと私は思いました。

何故なら、非常ブレーキを使って停車しているのですから。

別に結果として停止位置にきちんと止まれたという点では問題は無いのかもしれませんが、プロとしてはどうなのだろ、安全面ではどうなのかと考えさせられます。



そもそも非常ブレーキと言うのは、名前の通り目の前に障害物があったり等今すぐ止まれるようにするためにあるものです。今回の場合は、車両のブレーキが電気指令式ブレーキだったために出来た技で、もし今でもまだ多く車両に使用されている電磁直通ブレーキであればこの技は使えませんでした。

理由は非常ブレーキをかけた後に、ブレーキを寛解するまで時間がかかるからです。電磁直通ブレーキであればすぐにブレーキを緩めれます。

それもあって、停車直前にはブレーキを緩める動作をしていることが分かります。

とはいえ、動画を見る限りブレーキは緩めているものの停車時の衝動は多少大きいように思えます。

この衝動に関して言ってる意味がわからないという方がたまにおられるのでいい例えを言っておきますと、自転車や車に乗って強いブレーキをとってみてください。速度0になるまでブレーキをとりつずけたらグッと衝動がありますよね?だから止まる直前は自然にブレーキを緩めると思うのですが、それは列車も同じということです。

列車の場合は、ブレーキを緩める動作をしても若干のタイムラグがあるので停車直前に強いブレーキから一気に緩めても衝動が強く出ることがあります。

では、何故運転士は停止動作中に非常ブレーキを使用したのかですが、いくつか考えられることがあります。



1つは単純にブレーキ開始地点が遅かったことです。

回復運転をしていたためなのか、単純に遅れたのかはわかりませんがその結果ブレーキを使用するタイミングが遅れたため常用ブレーキでは止まりきれなかった速度で駅に侵入した可能性があります。

2つめは、回生ブレーキが弱かった可能性です。

回生ブレーキは、周りに電車があまり走っていない場合うまく動作しない場合があります。と言うのも、もしそうなった場合には回生失効して空制ブレーキに切り替わるのですが、たまに回生ブレーキの状態でもいくら強く常用ブレーキ(例えば最大のB7)位置にブレーキをとっていても普段よりブレーキ力が弱くなる場合があり、それでEB位置にした可能性があります。EB位置にした場合非常ブレーキに切り替わると同時に回生ブレーキが切れて空制ブレーキとなり、EB位置から常用位置に切り替えても空制ブレーキとなります。詳しくはnoteに以前書きましたので気になる方はぜひご覧下さい。

【電車の知識】‘回生失効‘どうして起こる?|現役電車の運転士 @TRAINMAN_DRIVER #note https://note.com/densei04510/n/n82e95ea19111

最後の3つめは、初めからEBをとること前提で進入した可能性です。

これはない事だと思いますが、EBをとって一気にブレーキ時分を短縮して遅延回復を図る可能性です。



鉄道の運転士は、時間通りに列車を運転しなければならない使命がある一方でそれ以上に快適な乗り物として、そして何より安全運転に努めなければなりません。

先程の動画では運転士を評価したコメントが多くありましたが、回生ブレーキの事情や非常時、異常時で無いのであればEBを通常のブレーキとして使用するのは車内転倒事故等のリスクがあり、とてもプロの運転とは私個人的には思いません。定時運行だけがプロという訳では無いのです。

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